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『ちょうどその頃』

 梅雨の季節になる少し前の頃、少しずつ湿度が上がっているのが肌でわかる頃。僕はこの時期が来ると得した気分になる。そんなことを人を待ちながら喫煙所でスマホ片手に考えていた。
 下北沢の駅は全盛期が過ぎたソシャゲ並みに何かとコラボしている。人気アーティストがアルバムを出した時、お笑い芸人がショーレースで優勝した時、この街は何がなんでもカルチャーにしたいらしい。今日は下北沢全体をお笑いライブのクエストマップにしているらしい。

「10分後に僕たちがでるコントライブがありまーす」
多分誰も知らないトリオのお笑い芸人が駅前で呼び込みをしていた。僕は10分前にネタ合わせもしないで呼び込みをしているのに感心をし、なんとなく声をかけてみた。
「どこでやってるんですか」
「っ、ここから見えるあのビルの4階でやっています!」
一番体のでかいボケらしき人が初めて声をかけられたのかたどたどしくも嬉しく答えてくれた。
「へー面白そうですね」
僕は予定までちょうど時間があったのと声をかけられて嬉しそうにしていたでっかい人たちのコントに興味を持ってしまったので軽い気持ちで行ってみることにした。
 コントライブは40分程度で終わった。芸人、結成1年目までの新人を対象にしたショーレースの予選で10組が3分前後のネタが次々と目の前で流れていた。
 彼らのネタはなかなか面白くなかった。全くつまらないわけでもない。声をかけたでっかいボケの人は想像通りボケであと2人は何をしていたかあんまり覚えていない。一番最後に出てきたピン芸人はつまらな過ぎてとても印象に残っている。それもない。芸人においてつまらなくないのも致命傷なのかと思った。
 予定までちょうどいい暇つぶしができた。でも、自分にとってどうでもいい時間の使い方だとしてもあの芸人たちはこれから何年も芸人を続けていく覚悟を持った人たちだなんて誰も考えないだろう。何年後も生き残れる若手芸人は限りなく少ないだろうが。僕はそんな自分にも跳ね返ってくるような台詞を心の中で呟きながら喫煙所に向かった。

 「マックのクーポンっていつからあんな渋くなったんだろうな」
「んー、てかモスの方がうまくね」
喫煙所で聞こえてくる会話なんて何の意味もない、ただ時間が過ぎるのを視覚で認識していることから目を背けるためのツールでしかない。しかし、湿度が高くなると少しだけ燃焼が遅くなる気がしている。カルチャーに揉まれるこの街でも流れる時間に余裕が持てるこの時期に少しだけ心を許す。

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