蓮見翔のオデコネ書き出し_アレンジ

書き出し:ラジオネーム 酒屋の息子の三代目
作:KT
蓮見翔のAudee Conectより

お昼だから二人でフードコートに向かっている。
昨日は私がマックで、彼がケンタッキーだった。
その前は私が銀だこで、彼がポッポのたこ焼きだった。
私たちは考えていることは近いはずなのに、いつも少しだけずれている。

北側の出入り口で待つ私のところに、今日も少しだけ遅れてきた彼は悪びれもせずにAirPodsをたどたどしくケースに戻す。
注意するほどでもない遅刻癖は私の中で塵積もる前にいつの間にかなくなっている。
そんな彼のことが好きで付き合っているのだが最近少しだけ変なことを考えてしまう。

フードコートは南側の入り口にある。北集合、すぐに南に向かうこの時間は結構好きだとお互い思っているはず。
彼はその途中でその日見た夢の話を絶対にしてくれる。
昨日は大型の鳥に乗って世界を旅する夢、その前は火星人に侵略される地球と戦う彼、そんな話を嬉々とした表情でしてくれる。
私はその再現された夢の話に耳を傾けて歩いてフードコートに向かう。

今日も平日だからさほど混んでいない。
無駄に広いフードコートで彼は気分で席を選ぶ。
どこの店舗に近いわけでもなく、
セルフ飲料所にも近くない丸い机を選んだ。

昨日まで彼の気分は正解を自然に選んでいた。
今日、どうしても彼の席選びに納得がいかなかったのが、
もしかしたら少しずつずれていた私たちに決定的な溝を生んだのかもしれない。

私ははなまるうどんで釜玉うどんを注文して颯爽と席に戻った。
そこには一風堂の博多流スペシャルとんこつ、ネギとキクラゲ抜きで頼んだ彼が待っていた。
聞いてもいないのに毎回自分が注文したメニューを教えてくる。
彼はその間、商品ができたことを知らせるブザーに何度も目線が動く。
私たちはここのフードコートの店舗がどれくらいの速度で商品を作るか体感で大体わかるようになってしまっている。
だから、彼はブザーが鳴る少し前に立ち上がる。

その時、片田舎のフードコートの何もかも自然に知り尽くしてしまっている私たちに急に嫌気がさした。
彼は私に何をすれば喜ぶか、どのラインを超えたら嫌な気にさせるかわかっていた。フードコートと一緒だ。
私のことも知った気になっていると思った瞬間、
溝にかろうじてかかっていた吊り橋も崩れた気がした。

彼は何度も食べたことのある一風堂を両手に満面な笑みで席に戻ってくる。
そのころ釜玉うどんは後数本。
座ると同時に食べ始めて、最近よく聴く曲の話を始めた。
彼は食べながら私に話しかける。

私がカネヨリマサルを聴く頃に羊文学をおすすめする彼。
まだ3口しか食べていない一風堂のトレーを端に寄せて、
胸ポケットからAirPodsを取り出した。
よく見ると純正じゃなかった。
もう我慢の限界だった。
私は立ち上がり彼に別れを告げた。

私は羊文学が好きだったし、これからもっと好きになると思う。
だけど、ガールズバンドを聴くたびに
純正じゃないAirPodsが右の胸ポケットから出てくるのを思い出してしまう。

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